長谷川朋子のキモノこらむ(2023年・秋)
8億枚の眠れる獅子
秋分の日を過ぎて、ようやく暑さも少し穏やかになってきましたね。着物を着るにはうってつけの季節になりました。夏は暑いから着物は…と言っていた方、お待たせしました。シーズンでございます。羽織のおしゃれも楽しめるし、汗もかかないし、この秋冬はおしゃれに着物でお出掛けしてみてくださいね。
イギリス人インフルエンサーが伝える着物の魅力
先日の読売新間に興味深い記事がありました。“関心アリ!”というコーナーにタイトルは「英出身女性着物に恋し38年」という記事でした。英国のインフルエンサーのシーラー・クリフさん。そういえばテレビにも着物をアレンジしたスタイルで出演されていたのを見たことあります。その時はおしゃれな外国の人だなっていうくらいで気にも留めなかったのですが、興味を持ってみると私、日本人なのに負けているな―と思ってしまったのです。
クリフさんは、24歳の時に日本へ来た際に、骨とう品屋さんで見かけた赤い長襦袢の美しさに魅せられ、すぐに日本で着物を学ぼう!と決意されたそうです。赤い長襦袢の魅力…その気持ちわかります!それから38年、日本各地を巡り日本の文化や暮らしを学び、着物の素晴らしさを伝えたいと活動されています。今ではほぼ毎日着物で暮らしているそうです。
私も着物の素晴らしさを伝えたい!
今の時代、男だとか女だとか、どこの国の人であろうが関係ないのかもしれません。でも私は日本人です。生まれ育った国には特別な思い入れがあります。私も着物の素晴らしさを伝えたい!という思いがあります!でもそれを違う国でやってしまっているクリフさんに比べると、覚悟が全然足りなかったように思います。着物屋さんなのに反省です。海外での着物人気は高まってきています。2020年から23年、ロンドンやパリの美術館で着物の大規模展が開催されました。インターネットで遡ってみると、とても素敵。驚くのは展示されていたものは日本から持って行ったものではなく海外のコレクターの持ち物だということ。江戸時代の着物から近代の着物まで。クイーンのフレディー・マーキュリーが来日中に購入して愛用していた、縮緬の着物や、山本寛斎によるデビッド・ボウイの着物をアレンジした舞台衣装も展示されていたそうです。私もそんな着物展を観てみたかったです。世界中で認められている着物なのにどうして日本では着物離れが進んでいるのでしようか。
箪笥の肥やしが8億枚!
先月にはお店のメンバーズカードを作りに700名を超えるお客様がご来店くださいました。着物を大切にしてほしいとの願いをこめたカードです。たくさんの方が来てくださって本当に嬉しかったです。でもお電話をしていると、箪笥の肥やしになっているとか、しつけがついたままとか、とても多いことに淋しくなります。ただ皆さん、それを気にしていてくださっているのが、もしかしたら、それらの着物もきっかけや着る機会さえあれば着ていただけるのではないかなと思うのです。記事の中にこんな話も載っていました。いわゆる箪笥の肥やし的着物は、皆さんは国内でどのくらいあると思われますか?ちなみに日本の今の人口は、「1億2330万人です。なんと、驚きますよ!約8億枚の着物が箪笥に眠っているそうです。8億枚ですよ。昔はお嫁入りのお道具でしたので、 一通りの着物を揃えるのが親の務めのような時代があったから。ただ時代が洋装への憧れと共に、着物を普段着に着る人口が減少していきました。日本の着物は一枚一枚に高度な技術が施されているものがとても多いです。絞りに刺編、友禅といった素晴らしい技術。そんなきれいなものが8億枚も箪笥の中に眠ったままなんてもったいない話ですよね。
着物のセオリーは守るべき?
私は、着物はこう着るべきという、正統派の着物が好きです。でも夏の終わりにコスプレ会に参加することがありまして、矢羽根の2尺袖に袴を履き、髪はハーフアツプにして「は
いからさんが通る」スタイルで参加しました。これは通常ならNGだと思うのですが、とても楽しかったのです。着物にブーツもハイヒールも、寒い日のインナーにハイネックも。もともとのルールを知った上でのことでしたら、全然ありなのではと思います。昔の着物は丈が短いです。それなら下にロングスカートなんていうのもあり。クリフさんは「守っているばかりでは、着物は残らない。外国人である、私なりのやり方で、着物の素晴らしさを伝えていきたい」と世界に着物を発信していらっしゃいます。こうでなくてはいけない!というのが着物を堅苦しくしていた原因の一つかもしれませんね。もちろんルールは守りつつですけどね。
さて私はどうしましようか。クリフさんはインフルエンサー。インフルエンサーとは、世間や人の思考・行動に大きな影響を与える人物のことを示します。私も微力ながら、着物をたくさんの方に着てもらえるような仕事がしたいです。まだまだいっぱい勉強しないといけません。私は私なりのやり方で着物を発信していきたいと思います。皆さんに楽しい、嬉しいの気持ちを提供できたら幸いです。